こんにちは。私は翻訳者のアンと言います。(プロフィールはこちら)
近年、機械翻訳の精度が非常に高くなっているという情報をネット上でよく見かけます。
機械翻訳の進歩にしたがって増えてきていると感じるのが、機械が翻訳した文章を手直しする「MTPE」という仕事です。
私が取引している翻訳会社からも打診がたまにくるし、MTPEの募集もネット上でけっこう見かけるようになりました。
私自身も、何度かMTPEの仕事をしたことがあるのですが、正直にいうとMTPEはあまり好きではありません。
現時点では、他の人におすすめする仕事でもありません。なぜなら、翻訳単価よりずっと安い割に翻訳より大変なことが多いからです。
MTPEが嫌いな理由
労力のわりに、単価が安すぎるからです。
私の経験からいって、MTPEの単価は通常の翻訳料金の半額未満がほとんどです(通常の翻訳とは人間による翻訳、つまり人手翻訳のことです)。
人手翻訳の半額あればまだましで、半額未満もたくさんありました。私に実際に打診がきたなかで最も安かったのは、英日のMTPEで1ワードあたり2円ということろです。
機械翻訳の質が悪いこともMTPEが嫌いな理由のひとつです。MTPEをすると、機械翻訳がまだまだ不十分であることをすごく感じます。
訳文全体を大きく変えないといけないことも多々ありました。こうなると、簡単な手直しと言うより最初から自分で翻訳しているのと同じか、それより手間がかかります。
「原文を読む→機械の訳文を読む→原文と機械の訳文をよく比較する→機械の訳文の大部分を手直す」という作業は、「原文を読む→自分で翻訳する→翻訳後にレビュー」という作業よりも、はるかに労力を必要とし手間がかかります。
機械の訳文の質が悪い場合は、最初から自分で翻訳したほうが絶対に楽です。それにも関わらず、人手翻訳の料金よりはるかに安いのです。
機械が出力した訳文を修正していくよりは、人間による翻訳をレビューして修正する方がはるかに楽だと感じます。
機械翻訳がどれぐらい下手かについて
なぜか単語が繰り返されている、複雑な部分の訳が適当/間違ってる/抜けている、文字通り訳すべきではないところを文字通り訳してしまっている、不自然な日本語になっている、など多くの問題点があります。
機械翻訳を使ったことがある人は、簡単な文章なら間違うことはあまりないと感じるかもしれません。私も機械翻訳の実力を試したことがあって、本当に簡単な英文なら大丈夫なことが多かったです。
でも、わざわざ翻訳会社に翻訳を依頼する文書は普通そんなに簡単ではありません。高度な内容や直訳では意味が通じなくなる英文を機械が訳すので、修正な必要な箇所が大量に発生することになります。
お客さんが求めているのはあくまでも「誤訳のない正確な訳文」ですから、大量の間違いをもれなく見つけ出して修正しないといけません。
また、プロジェクトによって、「?」や「!」などは全角/半角とか、本の名前には「」を付けるとか、細かいルールがあります。
それらのルールを機械翻訳は守っていないことが多いので、そういった部分も修正していかねばなりません。これは簡単なようでかなり面倒くさく、精神的にも辛くなってきます。
それから、当然のことながら原文には企業名や製品名など「固有名詞」がたくさん出てくるわけですが、人手翻訳のときと同様にMTPEでも、固有名詞についてリサーチしないといけません。
固有名詞は文字通り訳すと意味不明な訳になることが多いですが、機械翻訳は固有名詞も一字一句直訳してしまいます。
だからリサーチして、日本ではどの呼称が一般的なのかを見極める必要があります。そのため、リサーチの時間も人手翻訳のときと同じように必要になります。
MTPEの依頼メールが来たけど断る
これまで書いてきたように、MTPEでは想像以上に労力と時間が必要でその単価もかなり安いために、私は基本的にMTPEは避けるようにしてます。
最近、以前私がMTPEに参加したところの会社から最近メールがあって、MTPEプロジェクトはに引き続き参加するかどうかの確認メールが来てしまいました。
しばらく考えた結果、今はもっと単価の良い会社から継続的に仕事を受けているのでそちらを優先するためにMTPEはしないことにしました。
この会社の他の翻訳案件では待遇が良いのもたまにあるので、友好的な関係は保っておきたいので丁寧に返信しました。
基本的にMTPEは断って、人手翻訳だけ受注するという方向でいこうと思ってます。
MTPEじゃ全然稼げないし、苦しいだけなので受注しない
MTPEは人手翻訳よりも大変なことが多いのに単価は翻訳料金の半分以下のことが当たり前なので、私は今後もMTPEの仕事をやりたいとは思いません。
料金が良ければやっても良いんですけど、MTPEだけやってても全然儲からないので無理ですね。現状では、人手翻訳や人手翻訳のレビューをやっているほうが報酬面からいっても労力の点から考えても、はるかに良いです。
空き時間でMTPEをやってくれる翻訳者を募集している翻訳会社もあり、私も参加したことがあります。
でも労力のわりに報酬が安すぎるので、空き時間があってもその仕事の存在を忘れるぐらいになってしまいました。
機械翻訳が今後どんどん普及していくなら、MTPEのような仕事はさらに増えていくかもしれません。
でも安い単価で受注してくれる人はいないのではないですかね。それに、自分を安売りすべきでないと思います。
私はMTPEは嫌いですが、やったことがないので試しにやってみたいという人は一度やってみてもいいかもしれません。全然おすすめはしないですが、もしどんな感じか知りたいなら。
MTPEを初めてやってみたときに、1時間あたりに対応できたワード数を計算して、それに1ワードあたりの単価をかけて時給に換算してみて、1か月そのMTPEだけやった場合、まともな報酬になるかどうかを確認してみるといいかもしれません。
それで、まともな報酬にならないようならやめたほうがいいです。私はやめました。
単価が安すぎて稼げないMTPEよりも、もっと単価のまともな他の仕事を探したほうが賢明だと思います。
※時給のMTPEはだいぶマシなように思います。体験談は以下の記事にまとめてます。